Lazuli

らずり

【読了】誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論

経緯

「誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論」を読んだ。どこだったかのブログでアフォーダンスという概念についてこの本を挙げつつ言及していて、なにそれーわからんってところから購入。
90年代に初版が出たのかな?有名な本らしい。結構古めの本で登場するデザイン例は時代を感じるものがあるけど書いてある内容自体は現代でも充分通用する話だったから特に古臭さを感じることはなかったな。
デザイン本って初めて読むけどなんつーか右脳が活性化する。いつもと違う脳を使って思考してる感じが新鮮だった。ちなみにこの本でいうデザインはインターフェイス的なものを指していて、ファッション系ではない。

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 (新曜社認知科学選書)

いいデザインとは

まず、いいデザインとはなにか。本では長いページを使って書かれているが要約すると以下の行為を何も気に留めることなく行えることだと思う。

  • 物の特徴を見て何が出来るのかが分かること
  • 自分の中に正しい概念モデルを作れること
  • 行動と結果が概念モデルと一致していること
  • 正しいフィードバックがあること

頭では分かっているけど文章にすると難しい。例を交えながらもう一度振り返ってみようと思う。

物の特徴を見て何が出来るのかが分かること

本を買うきっかけになったアフォーダンスとは、ここに出した「物の特徴」を指している。たとえば電話にある0〜9のボタンは見ただけで電話番号を入力するためのボタンだと分かるだろう。「番号が振ってある」という特徴のおかげで、ボタンを使って可能な動作が分かるということだ。この、何が出来るのかを表す特徴のことをアフォーダンスと呼ぶ。電話以外の例だと何があるかな。コップ。コップの取っ手は内容物が熱かったり冷たかったりしても問題なく持つためのアフォーダンス
いいデザインの第一に正しいアフォーダンスが設定されていることが挙げられる。電話のボタンに数字じゃなくアンパンマンの顔とか書いてあったら、番号を押したい時にどうすればいいか分からない。結果アフォーダンスが悪いということになる。
なんでアンパンマン。

自分の中に正しい概念モデルを作れること

概念モデルっていうとうまく意味を噛み砕けないな。アフォーダンスな特徴を操作して結果を予想できること、これを概念モデルという解釈で読んでいた。
引き続き電話の例で考えてみる。電話の概念モデルは、番号の付いたボタンを押して番号が入力出来ると予想すること、保留と書いてあるボタンを押すと相手との通話を保留に出来ると予想出来ること。これらは概念モデルにふさわしいね。他にも概念モデルの例は色々ありそう。じゃあ逆にふさわしくない場合はどうだろう。電話の側面に何かのつまみが付いていたとしよう。つまみは持ちやすく凹凸があって、回すためにあるのだと判断できるからアフォーダンスとしては正しいかもしれない。しかしつまみを回して何が出来るのかが分からない。もしかしたら電話の座高が高くなるのかも。もしかしたら受話器の音量が変化するのかも。何が出来るのか分からないから操作する時に迷ってしまう。あるいは適当にわけも分からず手当たり次第に操作するハメになる。つまみには例えば音量と書いたラベルを貼っておけば正しい概念モデルを形成し直すことが出来る。
アフォーダンスを見てどんな操作が出来るかが分かって、どんな結果が出るのか予想出来るモデルを正しく持てることがいいデザインの第二点。

行動と結果が概念モデルと一致していること

次に大事な点は先程作り上げた概念モデルが実際に現実のものとなるかどうか。同じく電話の例。2の番号ボタンを押して実際に2が入力されること、保留を押して通話が実際に保留されること。これはなんていうかな。そう間違えが起きなさそうな気がするな。2のボタンを押したら電話帳のデータを消去してしまったとか、テレビのスイッチが入ってしまったとか極端に言えばこういうことが起こさないことって意味だと思うけれど、こうなってしまうのは操作するまでに構築した概念モデルが間違っているっていうことだよね。概念モデルが間違っているということは正しいアフォーダンスが設定されていなかったということだし。側面についているラベルのないつまみは概念モデルが正しくないから、つまみを回したときに受話器の音量が大きくなってびっくりしてしまう。
いいデザインの第三点は、しっかり概念モデルを構築出来ていても操作結果がモデルと正しく結びついていなければならない。

正しいフィードバックがあること

最後の要点はフィードバック。概念モデルと操作結果の一致と似ている。相変わらず電話で考えてみるとする。
電話を操作するにあたり起こりうるフィードバックはなんだろう。番号のボタンで言えば、ボタンを押したときにピッと音がする、電話のディスプレイに押した番号が表示される、他にも電話を発信するときにプップップッと発信音がすることが挙げられる。自分の行った行為に何かしらの機械のレスポンスがあることが正しいフィードバックといえる。他にはなにがあるだろうか。
部屋の照明を点けるボタン。ボタンを押すと、フィードバックとして部屋の照明が点く。あるいはデジタルカメラ。写真を撮るボタンを押すとシャッター音がして写真が撮れたことをフィードバックとして合図する。いいね。
いいデザインの第四点は、自分の操作した行為に対して機械から正常なレスポンスが得られること。

まとめ

いいデザインとは、まず機械の持つ機能を扱うための特徴(アフォーダンス)が分かりやすく明快に設定されていること。次にアフォーダンスを見て自分の中に概念モデルという操作手順を組み上げることができること。その次に、作り上げた概念モデルが実際の操作結果と結びつくこと。最後に操作結果は人間へのフィードバックとして何かしらの機械からのレスポンスを受け取ることが出来ること。この四点になる。
普段何気なく操作している機械の扱いを振り返るというのはおもしろいなと思った。まあ当然ながらこの本に書いてあることはいいデザイン四点についてだけ書いてあるだけじゃないけど一番印象深かったのはこのへんだったな。これを踏まえると、いいデザインのインターフェイスというのは普段当たり前に使いすぎてて視界に入ってきていないということになる。いろんな物に視野を広げて見てみようと思えた。良書でした。